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第九章 「姉の日記 その三」

 
 

二月二十日 (金)

 昨日、自分の身体から光が出ているのを見つけた時には、かなり取り乱してしまった。あのクスリのせいで身体がおかしくなったのだろうか、あるいは、わたしの心が変になってしまったのだろうか……と、一睡もせずに悩んだ。でも昨日のお夕飯の時も、菅井さんは、別に何も言わなかった−−−彼女は全然、見えていないみたい。逆にわたしは再び、朝ご飯のときに、菅井さんが本当に微かに、わたしとはちょっと違った色の光を発しているのに気づいた。

 TVをつけてもそうだった。タレント、アナウンサー、ドラマの役者も皆それぞれに、そんな光−−−きっと、「気」とか、「オーラ」とでも言うのだろう−−−を放っている。アイドルと呼ばれている女性歌手は、昨日のわたしと同じくらいに眩しくて、逆に、ニュースを読むアナウンサーの人は菅井さんと同じで、よく観ないと気づかない程度なんだけど……、確かに光を出している。

 夕方になって、外に出た。街行く人や、散歩中の犬さえも、様々な色、色々な強さの光を放っている。まだ明るい時はそれほどでもなかったけど、夕暮れになって渋谷の駅前に立って回りを見ていたら、もの凄いことになっていた。

 すべての人が、色とりどりに輝いている。中には、遙か上空まで届くようなオーラを放っている人もいて、遠くからハチ公前の人の群れを見ていると、何本もの光の弦が天から垂れてきているようにも見えた。

 そして、ふと上を見上げると、わたしの蒼白いオーラも、細い筋となって遙か星空に向かって伸びている。そして……。恐ろしかったのは、ほんの時折だけど、わたしと同じ色の人のオーラが、その人たちがわたしのそばを通りがかると、わたしに向けてねじ曲がって、わたしのそれに束ねられてしまうように見えたことだ。そしてそのたびに、わたしのお腹の奥にグッと力が漲って、そしてまた天を仰ぎ見ると、わたしのオーラが先ほどよりも太く、力強くたなびいていたのだ。

 さすがにパニック寸前になってしまって、タクシーを止めると家に逃げ帰った。運転手さんのオーラが全然違う色でホッとした……。 

 わたしは、どうなってしまったのだろう。これから、どうなるのだろう……?
 

三月七日 (金)

 「オーラ」が目に見えるようになってから、色々なことがあった。ありすぎた。

 人混みに出るたびに、わたしのオーラは強くなって行く。キャンパスの人混みを歩いているだけで、何本もの光がわたしに向かって飛んできて……そして、お腹をしたいという気持ちも、抑えきれないほどに強くなって行く。どうしようもなくなって駆け込んだトイレの鏡の中には、特殊効果を施したみたいに輝いているわたしがいた……。

 父は時々関西から帰ってくるが、何も感じてはいないらしい。事業が不調なせいか、ほとんどオーラは見えなかった。でも妹は、先月スキーから帰ってきたとき、わたしと同じ色のオーラをかなりはっきり漂わせていた。そして、わたしがそのオーラを吸い込んでしまうと、それまで心なしか沈んだ感じの表情だったのが(後で聞いたら、スキー場で失恋まがいのことがあったらしい)、パッと明るくなったように見えたのは不思議だった。 

 この数日、お腹の衝動は抑えきれないくらい強くなっている……。他の人のオーラを集め、それがお腹の中で熱く大きく膨れ上がると、外に出して欲しいとわたしをせっつくような感じ。自分を慰めるとちょっとだけ弱くなってくれるようだけど、このままではとんでもないことが起こりそう……。クスリの一過的な副作用(?)だとしたら、やはり早く終わって欲しい。

 でも……その反面、今度は素面で手習いをしてみようとも思ったりしてしまう。これが何なのか、あの時わたしに何が起こったのか、どうしても確かめなくてはならないからだ。